【経済】さらに大規模緩和が可能、副作用に最大限配慮-日銀総裁の単独インタビュー

日本銀行黒田東彦総裁は、必要ならさらに大規模な緩和を行うことができると述べるとともに、追加緩和に踏み切る際は副作用を減らすために最大限配慮する意向を明らかにした。

黒田総裁は前日まで20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議が開かれた福岡市内で10日、ブルームバーグテレビジョンのキャサリン・ヘイズとの英語での単独インタビューに応じ、「2%の物価目標に向けたモメンタムが失われれば追加緩和を行う」と語った。

黒田総裁はこの中で、日銀が追加緩和が必要になった時、何か大きなことがやれるのか、との問いに「そう思う」と答えた。同時に、「日本経済は全体としてよくやっている」とした上で、「現時点では日本経済は追加的な対策が必要な状態ではない」と指摘。また、「仮に追加緩和が必要になった場合、最大限、副作用を避けるため、さまざまな金融手段を組み合わせる可能性がある」と表明した。

円ドル相場は黒田総裁の発言が伝わると1ドル=108円67銭まで円安が進んだ。

米中貿易交渉は5月以降、双方が一部輸入品の関税を引き上げるなど対立が激化しており、世界銀行は5日、貿易減退を理由に2019年の世界成長率見通しを下方修正した。世界景気の減速に各国の中央銀行は金融緩和で対応する構えを見せており、米連邦準備制度理事会FRB)のパウエル議長は4日の講演で、必要なら利下げの可能性を閉ざさない姿勢を示唆。国内でも日銀の追加緩和観測が台頭している。

手段は「特に金融市場に依存」
黒田総裁は追加緩和の手段として、短期金利の引き下げ、長期金利の引き下げ、資産買い入れ拡大、マネタリーベース拡大ペース加速の4つを改めて挙げた上で、この中のどれをどのように組み合わせて使うかは「経済状況だけでなく、特に金融市場の状況による」と説明した。

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は6日の政策委員会会合後の会見で、「長引く不透明感」と「保護主義の脅威の高まり」を挙げ、政策委員らは必要に応じて行動することを「決意している」と述べた。黒田総裁は「ドラギ総裁のように、必要ならわれわれも行動できると思う」と語った。

JPモルガン証券の鵜飼博史チーフエコノミストは7日付リポートで、9月の金融政策決定会合で短期政策金利をマイナス0.3%に引き下げると予想。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアエコノミストは同日付リポートで、早ければ19、20日の決定会合で、現状の長短金利水準を維持する期間を「少なくとも20年春ごろまで」から「20年末ごろまで」に延ばす可能性があると指摘した。

日銀の緩和観測が台頭する中、地方銀行の収益への影響など副作用に対する懸念も強まっている。日銀は金融システムリポートで、不動産業向け貸出比率を高める金融機関ほど「自己資本比率が低い傾向」があると指摘。収益性の低下に苦しむ地方銀行のリスクテークに警鐘を鳴らすとともに、企業の資金需要が現在と同じペースで減った場合、約6割の地銀が28年度に最終赤字になるとの試算を示した。

黒田総裁は「地方経済は人口と企業数の減少に苦しんでおり、地域金融機関の収益は減少傾向にある」と指摘。国内の金融システムは「現状、極めて平静だ」としながらも、「注意深く状況を見ていかなければならない」と述べた。

東和銀行の吉永國光頭取は6日にブルームバーグに対し、「日銀がさらにマイナス金利を深堀りすると、金融機関は非常に厳しい状況に置かれるところが多くなる」と指摘。 そうなると「地域経済にもお客様にも大変な問題が生じるため、絶対にやめていただきたいし、できるだけ正常化を早くしてほしい」と語った。

消費増税に「理解」
麻生財務相はG20会議初日の8日、今年10月に消費税率を挙げる予定であることを改めて各国に説明した。桜井真審議委員は先月30日の講演で「仮に10月時点で海外経済が減速を続け建ている場合、わが国経済を下押しする影響が大きくなる可能性はある」と懸念を示した。しかし、黒田総裁はインタビューで消費増税の予定通りの実施について「理解できる」と語った。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-10/PSV5GL6KLVSH01