70年ぶりの識字調査実施へ 未就学者や外国籍の増加受け

日本で生活していても簡単な日本語の読み書きができない人たちはどれくらいいるのか。国内ではこうした識字調査は戦後の占領下で行われてから70年以上実施されていません。しかし近年、不登校の子どもたちや親の仕事の都合で来日する外国籍の子どもたちが増えていることを受けて専門家が実態調査に動き出しました。

日本では明治時代から学校教育に力が入れられてきたため、日本語を読み書きする能力は極めて高いとされてきました。そのため、国内の識字調査は、戦後まもない1948年にアメリカの教育使節団の指示で実施されたのを最後に行われませんでした。

しかし近年、不登校や親による虐待などで、学校に通えないまま卒業した人たちや、親の仕事の都合で来日する外国籍の子どもたちが増加していることを受けて、日本語の調査研究を行っている国立国語研究所の野山広准教授らのチームが実態を調査することになりました。

調査は全国で設置が進む「夜間中学」や地域の日本語教室などに通う16歳以上の日本人や外国人を対象に行われ、簡単な日本語の文章が理解できるかどうかなどを把握します。また、日常生活の聞き取りも行う方針です。

野山准教授は「日本人の教育だけでなく、今回は外国人も対象となる。基礎教育を保障する多文化共生社会の実現に向けた調査の在り方を検討していきたい」と話しています。

なぜ今、識字調査が必要なのか?
識字調査が必要になってきたのは、日本語で生活を送る人たちの多様化が背景にあります。

1つは、不登校や親による虐待などで就学の機会を奪われたいわゆる「未就学者」の存在です。7年前に公表された国勢調査で、その数は12万8000人以上とされていますが、実際はその何倍にも上ると指摘する専門家もいます。

また、増え続ける外国籍の子どもたちの問題も明らかになってきています。国はことし4月、法律を改正し、外国人労働者の受け入れを拡大しましたが、政府は今後5年間でその数は34万5000人を超えると試算しています。

こうした事情により、日本語で生活する人たちの「識字」の実態を改めて把握する必要が出てきたというのです。
最後に行われた識字調査とは
日本で大がかりな識字調査が行われたのは終戦後の1948年にさかのぼります。

調査を指示したのは、GHQ=連合国最高司令官総司令部が戦後の日本で教育改革を行うためアメリカから派遣された使節団です。使節団は「漢字とひらがなを使う日本語は難しすぎて負担となっている」と考え、当初、ローマ字の採用を検討していたといいます。

そこで、日本語が国民にどれだけ定着しているかを把握するため行われたのがこの調査でした。全国の15歳から64歳までの男女およそ1万7000人を対象に行われ、読み書きや文章の理解など合わせて90もの問題が出されました。

その一部です。

「朝太陽は、(上、雨、東、冬)から出る」
「あの人の(態度、国民、各派、必要)は立派だ」

調査の結果、読み書きできる能力がある人たちは全体の97%を超えていて、文部省も日本で読み書きできない人の割合は世界で最も低い部類に属していると公表しました。
当事者の若者たちは
岡山市に住む井上健司さん(34)は、小学3年生の時に糖尿病を患い、母親の看病などもあり、学校にほとんど通えませんでした。その後、警備などの仕事をしましたが、20歳の時に体調を崩して、退職しました。

しかし、読み書きについては、自分の住所が書けなかったり、町なかの看板が読めなかったりするなど、日常生活でも苦労したため、再就職には学び直す必要があると感じました。そこで、1年半前から岡山市内の自主夜間中学で小学校の学習内容から再び勉強をしています。

井上さんは「一人前になれていないという思いが強く、情けない。僕は書いたり、計算することができませんが、普通に話しているかぎりは気付かれることは少ないので、このような問題は表に出づらいと思う」と話していました。

全文
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190610/k10011947721000.html?utm_int=news-new_contents_list-items_017