【室井佑月】「衰退してゆくのかも」
作家・室井佑月氏は、高齢者を冷遇する政府のやり方を批判する。
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5月22日、金融庁が老後の資金に備えた資産形成に関する指針案を出してきた。
その指針案はどういうものかというと、公的年金に頼らず資産運用など自助努力をすべきという内容だった。
今、無貯金の高齢者が増えていることが問題となっているのにね。若い頃から金貯めて投資などで資産運用しろ、っていわれてもさ、非正規雇用などカツカツの賃金で暮らしている人も問題になってんじゃん。
今いる弱者に国が手を差し伸べるのは当然だし、増える低賃金の非正規労働者の問題をなんとかせねば、この国の大問題である超少子高齢化を食い止めることができないだろう。
そういったことをすっ飛ばし、結局、自業自得とか、自己責任とかいいたいように感じてしまったわ~。
それに最近、政府の働き方改革の中の高齢者の就業促進が、まるで良いことのようにテレビなどで取り上げられるのが不気味じゃ。
そりゃあさ、元気でやる気に満ちている高齢者の人々が、仕事をつづけていくのはいいことなんだよ。
でも、その部分ばっかり宣伝するのは危ういとあたしは思う。
テレビで高齢のタレントさんが、高齢者の就業促進について尋ねられ、「働けるうちは働きます。ありがたいことです」と答える。でも、そのタレントさんのような高い賃金で働いている人は稀でしょう?
定年を70歳まで引き上げたら、年金を払うのは70歳までで、支給は75歳からなんてことにならないか? 政府はまだそこについてははっきりいっていないから、あたしの不安な妄想であって欲しいけど。
だって、制度が変わるときは一斉に、だ。その一斉には無貯金の高齢者も含まれてしまう。
もうみんなわかってると思うけど、お金を持っていることと健康でいられることは、ある程度比例する。
お金がない高齢者全員が元気でやる気に満ちているわけではないはずだ。けれど、年金支給は遅れ、逆に年金の支払いが延びたら、そのぶん働かねばならぬ。生活のため働くのだとしたら、足腰が痛くても、休むって解決法はないわけで。
でもって、そういう高齢者が、企業側から厚遇を受けるとは思われず。これから安価な労働力としてさらに外国人がこの国に入ってくるわけだから、そこと賃金は競うように安くされるんだろう。
そして、若者も苦労する。とりあえずの労働者を集めた企業が、これから国の宝となる若者だからといって優遇する方向に動くかしら?
内部留保を増やすことしか頭にない、社会貢献など考えない企業は、若者の賃金も安いほうに合わせると思われる。労働人口が減るというのに、正社員にはなれない若者が続出するんじゃないかと思われる。
もうこの国では、一部の人たちしか長生きを喜べない。そんな国は衰退していく運命なのかもしれない。
※週刊朝日 2019年6月14日号
2019/6/6 07:00
https://dot.asahi.com/wa/2019060500008.html