【技術】「まさか見られるとは・・・」終末期がん患者、VR映像で思い出の場所へ

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一日でもいいから自宅に帰りたい。ふるさとをもう一度訪れたい-。
終末期のがん患者の願いをかなえるため、兵庫県芦屋市朝日ケ丘町の市立芦屋病院の緩和ケア病棟で、
仮想現実(VR)の装置が活用されている。患者は病室にいながら外出を疑似体験でき、気
分の落ち込みが改善するなどの効果が表れているという。
2017年度から大阪大大学院薬学研究科と共同で取り組み、5月末にはドイツで開かれたヨーロッパ緩和ケア学会で発表した。

中皮腫を患い、緩和ケア病棟で過ごす同県尼崎市の男性(66)は5月末~6月初旬、
ベッド上でVRヘッドセットを装着した。「自宅を見たい」という男性の願いを受け、
妻(59)と三女(26)が、360度カメラで撮影したリビングや寝室、ヤマモモやモクレンが育つ庭、愛車などの映像が流れた。

妻と三女は「本人目線で、歩いているように撮影した。パパがいつも座っていたソファに座り、
好きなゴルフ番組にチャンネルを合わせた。13年間乗った車の運転席では、運転気分を味わえるよう工夫した」
と話す。男性は「まさか見られると思ってなかった」と感想を漏らし、特に愛車の場面の再生を繰り返した。

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きっかけは17年の出来事だった。同病院で帰宅がかなわない患者のために、自宅のカーテンを使って病室の模様替えをしたところ、
とても喜ばれた。非常勤薬剤師で大阪大大学院薬学研究科助教の仁木一順さん(31)がその話を聞き、VRの活用を提案した。

共同研究として取り組むことが決まり、17年11月から18年4月にかけて、患者20人に体験してもらった。

ふるさとや結婚式をした思い出の地、旅行先など患者の望みに応じ、関西や九州など各地で映像を撮影。
衛星写真による「グーグルアース」も活用した。

飛騨高山でバスの運転手をしていた男性は「運行ルートをたどりたい」と要望した。自宅の仏壇の前に座りたいという人もいた。

体験前と体験後にアンケートで感想を尋ねたところ、不安感が減り、楽しみや幸福感が増す傾向が見られたという。

同病院薬剤部長の岡本禎晃さん(51)は「終末期には、薬が効かない苦痛や苦悩があり、患者のために何かできないかと考えてきた。
VRでは予想以上に良い結果が出た。患者の希望をかなえることは、家族のケアにもなる」と話す。


仮想現実(VR)の装置を着け、自宅の映像を見る男性=芦屋市朝日ケ丘町
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