【テレビ】NHK ネット常時同時配信へ 若年層を中心としたテレビ離れ、ネット動画配信サービス普及が背景

NHKがテレビ番組をインターネットで常時同時配信することを認める改正放送法が成立した。NHKは来年3月までの開始に向け準備を急ぐ考えだが、背景には若年層を中心としたテレビ離れと、ネットを通じた動画配信の急速な普及がある。視聴者の利便性は増す一方で、民放からはNHKのさらなる肥大化を懸念する声が強い。受信料制度の在り方が変わっていく可能性もある。 (原田晋也)

 同時配信はこれまで、災害報道や大型スポーツ中継などに限って認められていたが、法改正により放映中の地上波総合とEテレの全番組が、パソコンやスマートフォンなどで見られるようになる。

 近年、若い世代はネットの利用時間がテレビの視聴時間を上回っており、ネットフリックスなど海外の動画配信サービスの展開が拍車をかける。来年には高速で大容量の次世代通信規格「5G」の本格的運用が始まり、動画配信の加速はさらに進むとみられる。こうした状況で「公共放送」から、ネットも含めた「公共メディア」への転換を掲げるNHKにとって、常時同時配信は念願だった。

 NHKは来年三月、東京五輪聖火リレーのスタートまでに同時配信を始める意向だ。受信料を払っている人には追加負担はなく、払っていない人が見ようとすると、受信契約を促すメッセージが出て視聴を妨げる仕組みになるという。

 しかし、同時配信を急ぐNHKに対し、民放からは「民業圧迫だ」との懸念が続いている。同時配信には巨額の設備投資が必要で、民放側は採算性が悪いことや、特に経営基盤が弱い地方局への影響などを理由に反発を強めている。

 民放連はNHKがネット事業に使える費用の上限を「受信料収入の2・5%」に収めるよう求めるなど、けん制。日本テレビの大久保好男社長は五月二十七日の定例会見で「配信業務の事業費が無制限に拡大すれば、NHKの肥大化につながる」とくぎを刺した。受信料収入が初めて七千億円を超えた二〇一八年度で計算すれば、2・5%は百七十八億円。番組のネット配信サービス「Paravi(パラビ)」に共同出資しているテレビ東京の小孫茂社長は同月三十日の定例会見で「2・5%といってもすごい金額。私どもと比べると事業費が一桁違う」と指摘した。

 その一方で、常時同時配信が始まることが決まった以上、対抗の動きも模索している。小孫社長は「NHKの常時同時配信は議論が具体的になって進んでいく一つのきっかけになるだろう」と話した。

◆問われる受信料制度

 常時同時配信は受信料の体系にも影響を与える可能性がある。常時同時配信を進める根拠の一つは、諸外国で導入が進んでいること。国立国会図書館の調査によると、英国、ドイツ、フランス、韓国の公共放送は既に実施している。各国ともネットでの動画配信サービスを展開しており、英BBCは見逃し番組を見るサービスを利用するだけでも受信料の徴収対象となる。

 ドイツでは当初、テレビごとに受信料を課していたが、ネットでのサービスが拡大してきたことから〇七年にネットに接続できるパソコンなども徴収対象に加えた。さらにスマホの普及が進み、徴収根拠に説得力がなくなってきたこともあり、受信機器の有無に関わらず全ての世帯と事業所から「放送負担金」を徴収する制度が一三年から始まった。

 今後、テレビを所有せず、パソコンやスマホしか持たない人がさらに増加することが予想される。NHKの上田良一会長は六日の定例会見で「将来的に視聴習慣の変化は十分ある。その際、受信料制度のあり方は研究が必要な課題だと考えている」と言及。ネット時代の公共放送のあり方について議論が深まる可能性はありそうだ。

2019年6月8日 朝刊
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